1980年、社会人となって初めて大きな買い物をした。
特にオーディオに興味があったわけではないが、成り行きで買ってしまったのが、スピーカーのJBL4311A。
アンプはヤマハのC-6 B-2 プレイヤーはビクターのQL-7R。
スピーカーについてはYAMAHAのNS-1000Mと迷ったが、結局見た目で4311Aに決めた記憶がある。
やがて家族が出来、聴く機会をすっかり失ってしまい、その内皆から邪魔者扱にされて長い間押し入れに眠ってしまった。
2020年、65歳になって間もなく、コロナ禍となって、余暇対策で始めたヤマハの船外機のオーバーホールを始めた。その部品待ちの時、
「そう言えば4311は元気にしているだろうか?」と、ふと思た。
取り敢えず状況確認をしてみよう。
リビングではいたずら盛りの孫たちがやって来た時、それは恰好のおもちゃになる。
特にスピーカーで遊ばれるとダーメージは大きい。
仕方ないから、私の狭い部屋に持ち込んだ。
カビ臭い4311のネットを外すとツィーター周りのスポンジが朽ち果てて哀れな姿である。
ネットも木枠から一部剥がれ、片方のツィーターのコーンもいつの間にか凹んでた。
しかし、他のスピーカユニットに目立った損傷等は見当たらず、先ず健在の模様。
しかし、どれも重たい。特にパワーアンプのB2は腰に来る。
調べみると26Kgもあった。
配線して久々にアンプのスイッチを入れた。
共に電源ランプが灯った。
C-6をセットしてSONYのCDプレーヤーXA30ESの再生ボタンを押した。
— 音が出た!
しかし …なんか変。
右側の4311Aから音が出ていない!。
それにB2の 左右のメーターが30~40db付近で不自然に震えている。
アンプか?それともスピーカーか?
そこでコードを入れ替えみると、やはり右側の音が出ない。
となると、アンプ。
素人にできる修理と言えば、ひっぱたたくこととスイッチの断続的なON、OFFの繰り返しくらい。
私はかつて、プロのサービスマンがテレビをバンバンと叩いたりスイッチやつまみをグルグルと回したり、押したりを繰り返して直している姿を見たことがある。
そこで、鉄の塊のようなB2を叩いてみた、が、びくともしない。
B2はA・B、2系統のスピーカーを鳴らすことができ、それを切り替える2つの押し込みボタンがある。そのボタンを押してみた。
すると、ガリガリという感触がある。
もしや、と思いそのボタンを交互に押し込んでON OFFを繰り返した。すると、
鳴った!
原因は経年劣化(長期間使用しなかったこと)による接点の発錆と思われる。
取り敢えず接点復活剤を表から吹きかけた。
この程度なら素人でも修繕できそうだ。
ただ、左右のメーターは依然不規則に震えている。
それより、4311Aが息災であったことが何よりである。
見た目は年輪を感じるが、音は当時と変わらない、と思う。
ところが、スピーカーのコードをいじっているその時、「ジィジィ」と片方の4311が小さく唸って突然沈黙した。
いよいよアンプのご臨終か!それとも4311か??
そこで、コードを一方のスピーカーにつなぎ変えてみると・・・
音が出た。となれば、
負傷者は、4311Aである。
3つのスピーカーユニットから音が出ないということは、アンプ同様、入り口付近の(錆による)断線の可能性が高い。
確かに40年以上も時が経てば当然ガタも来て、錆も出るだろう。むしろ、鳴ること自体不思議である。
取り敢えずコードを差し込んだターミナルを丁寧に磨いた。
しかし4311は無言である。
ということは入口の反対側、即ちスピーカボックスの中の接点に錆の素がある⁈。
となれば、開腹して外科の手術。
― それとも老衰したオーディオ一式を供養して葬るか…⁉
しかし、どちらにしても、BOXを開腹して患部の状況を診てみたい。
スピーカーの構造はエンジンなどと違って単純である。
それにどのユニットも表から木ネジで止めてある。それを外せばOK⁉。
なんとなく出来そうである。
日を改め、狭い部屋をかたずけた。
そして、意識不明の4311を仰向けに寝かせた。
これから右手にドライバーを持ち手術に取り掛かる。
兎に角30㎝のウーハーを取り外せばターミナル裏の患部が現れるはず。
先ず、ネジを回してすべて外した。これは上手くいった。
いよいよ、本番。
腰を据え、ウーハーの縁に手をかけ、持ち上げた。
だが、びくともしない。何度も挑戦したがまるでボンドで接着してあるように微塵も動かない。
40年間の時の流れが頑なに拒み続ける。
打つ手がない。
材質は軟らかいMDFである。無理をすれば取り返しのつかない羽目になることは明白。
何か方法があるはず。
こうなれば皆様(ネット)の力を借りるほか手がない。
Googleで検索し、拝見している中に「なるほど!」という方法を見つけた。
それは、スピーカーボックスをうつぶせに寝かしてウーハーの自重で落下するのを気長に待つ、という戦法である。
鉄棒にぶら下がっておればそのうち力尽きて落ちる、それと同じだ。
B2ほどではないが30㎝ウーハーもヘビー級。気長に待てば自重に負けて必ず降参するはず。
スピーカーの接合部をわずかに湿らせて、一昼夜うつぶせに寝かしつけた。
翌日、そーっとBOXを上げ覗き込んだ。
もし意地を張って未だ食らいついているなら更に待つだけである。
― 見事に落下していた !
※緩めたネジで持ちこたえている。
ネットで教えて頂いた方に感謝。
4311を仰向けに寝かせてウーハーを取り外した。
BOXの中に1970年代が現れた。
(1976年発売開始)
時代を感じさせる。
やはりスピーカーターミナルと配線コードは平端子で接続されている。
早速テスターで当たってみると、導通しない。
錆は接点を持ち上げて発錆する。進行すれば断線の可能性がある。
懐中電灯で照らしながらその回路と色あせた配線をじっくりと見た。
―老体である。
ついでにセンターコーンの凹んだツィーターとミッドレンジも取り外した。
これは上手く外れた。
ネットワークのコンデンサー、アッテネーターも老衰死間近であろう。
診断結果は、
スピーカーターミナルOUT部の発錆に伴う接点不良。
尚、他の接点、ネットワーク関係のパーツの経年劣化が極めて深刻と診た。
となれば、この機会にネットワーク関連の全てのパーツと配線を取り換えることが得策である。
パーツと言っても、コンデンサーとアッテネーター、配線コード、スピーカーターミナル位で、素人でもいけそうな構造だ。
それから、ツィータ周りのスポンジが悲惨なほどに劣化しているからこれも取り替えよう!
ついでに凹んでいるのコーンも取り換えることにした。(多少の不安はあるがチャレンジ!)
※写真は劣化したスポンジを剥ぎ取った後。
これからなんだか忙しくなりそうな気配だ。
ヤマハの船外機も同時進行というのに…。
65歳からの余生は多忙な時代到来の予感がしてきた。
アッテネーターユニットを取り外すには正面の細長いロゴ板を取り外す必要がある。
その下にネジが隠れている。
ところがこのアルミ板が強力に接着しており、中々は剥がれない。
無理に剥がしてアルミ板が傷付けば修復は先ず、不可能。
そこで、100円ショップで買ったクレスパーを持ち出し、ドライヤーで温めながらゆっくりと剥がした。
※ボンドが強力過ぎる。
(JBLはメンテナンスのことを考えていない⁈)
剥がれたアルミ板の下から2本のネジがでてきた。
このネジを外してアッテネーターのつまみを取り外し、ネットワーク一式を引き抜いた。
取り出したネットワーク。(古ぼけている)
レッドとブラック⇒入力
グリーン⇒ウーハー出力
ホワイト⇒ミッドレンジ出力
イエロー⇒ツィーター出力
回路を見てみるとウーハーにローパスフィルター(コイル)は見当たらず、ダイレクトにアンプにつながっている。
取り敢えず 純正品と同規格のアッテネーター、コンデンサー、ターミナルをそれぞで1セット(2台)分とツィータ(LE25)のコーンとスポンジを注文した。
それから取り外したツィータを清掃途中、髪の毛より細い銅線に気づかずに断線してしまったのでLE25用のコイルも注文する羽目になった。(油断大敵)
(コンデンサーはDAYTONアマゾンン、
アッテネーターはコイズミ無線、ツイーターのレストア一式(2台分1セットは何とかという専門業者から取り寄せた)
純正のネットワーク関係の接続は全てハンダ付である。(スピーカーユニットとの接続は平端子)
しかしハンダ抵抗があると聞いたので端子台で可能なところは端子台を使うことにした。(ハンダ抵抗というより端子台の方がやりやすいし見た目も良い)
純正の通りに配線を終えた。
後は、このユニットを元の位置にはめ込んで、各スピーカーユニットに接続すればよい。
ただその前に、ツィーターのコーン、コイルを取り換えなければならない。
コイルから伸びたの髪の毛より細い銅線を断線するという失敗がなければ凹んだセンターキャップだけの交換で済んだが、要らぬ手間と費用が掛かってしまった。
取り寄せた修復キット
他に接着債2種類
凹んだセンターキャップ、コーン、ダンパーをカッターで切り取って、ボイスコイルを取り出す。
そして、新しいボイスコイルとダンパーを専用の接着剤で接着する。ただ飛び出した細いリード線のどちらがプラスでどちらがマイナスか分からない。
また古いJBLは位相が逆(+-が逆)になっていると聞いたこともある。
そういえば確かコネクターのinのコード+側に黒いコード、マイナス側に赤いコードが接続されていたような気がする。
もし間違って逆位相になっていたらコードを差し替えればいい。
コーンを接着しセンターキャップを取り付けた。最後黒いスポンジのガスケットの両面テープを剥がして取付完了。
ネットワークとツイーターのオペが取り敢えず終わった。
BOXに組み戻す前に各スピーカーを元のように配線して音が出るか確かめた。
緊張の一瞬である。
アンプのスイッチを入れ、プレイボタンを押すと、痩せた音が出た。
ツイーターに耳を当て確かめるとそれなりの音が、先ず問題なく出ている。
アッテネーターも正常に作動している。
エンクロージャー(BOX)は凹んだところにはパテ処理をして軽くサンダーを掛け、同系色(ライトグレー)で全体を塗色した。
ただ、ウーハーの白いコーン紙は
「これを塗ったら新品当時の輝きを取り戻す」という触れ込みのオイルを塗った、が、色は更にくすんだ。
「騙された」と思った。
しかしどこにも「色」とは書いていない。多分、輝きを取り戻すのは「音色」のことを言っているのだろう。
それからエッジはバイクのブレーキオイルを塗るとよいと聞いたので「ヤマハ」のオイルを塗った。
その後、どうしてもウーハーの色の劣化が気になって、ネットでコーン専用の塗料を探して塗った。
新品当時がどのような色であったか定かでないが、見事に白くなった。
見た目が一新。気持ちが良い。
ネットも一部剥がれていたので、木工ボンドで貼りなおして、一応美容整形も完了。
これで見た目も内臓もとりあえず元気になった。
今回レストアしたのは1台のみで、片方のスピーカーは老体に鞭打ちながら未だ健在である。そのペアを例のアンプに繋いで音を出した。
(それから何時突然死するかもしれない、B-2(重量26Kg)の後任をそれとなく探していたら、なんと重さ100分の一以下、価格70分の一以下、更にBluetooth対応、出力100Wで手のひらに乗るアンプをアマゾンで見つけた。)
YOU LOKを鳴らした。
40年前の音と変わらない、と思う。
少なくとも、逆位相はない。
そこで、4311Aの左右のバランスを切り替えながら聞き比べてみた。
確かに今回レストアした方がノーマルの4311Aより、約1㏈(約10%)ほど音量が上がって、レンジ幅が広がり、よりクリアーな音になった。ような気がする。
JBL4311Aは30センチウーハーの揺れる低域からツイーターの細く繊細に抜ける高域まで、幅広いダイナミックレンジが特徴で特にジャズに向いているといわれている。
ただ、65歳を過ぎると耳のダイナミックレンジが狭くなってくる。
時にはホワイトノイズ(耳鳴り)も出る。
ある友人に「JBLを聴きに来ないか」と言った。
すると
「最近耳が遠くなって子供から補聴器を使えと言われた」…と言った。
モーツアルト協会の会員でケッヘル番号を持つ85歳になる先輩がいる。
開催されるコンサートも愉しみというが、外出先ではFMラジオのイヤホンを耳に当て、眼を閉じ、指で小さくリズムを取りながらモーツアルトを聴いておられる。
若い頃はそれなりの音響設備でモーツアルトを聴いていたに違いない。
あの頃聞いたスピーカーの響きを脳のアンプが増幅してイヤホンのから当時の豊かな音色を再生しているに違いない。
耳が達者なうちに、良い音で好きな音楽を脳の内のファイルに存分に保存していかなければならないと思った。