YMAHA 8馬力船外機オーバーホール
14年間眠っていた船外機の
オーバーホールに挑戦
果たして目覚めるか?
再び海原を滑走する予定のない2000年3月製造の船外機(YAMAHA 2ストローク8馬力)がアキレスのゴムボートと共に10年以上倉庫に安置されていた。言わばご遺体である。
ところが、世間がコロナで淀んでいたこともあって、ある日ふとそのご遺体を蘇らせようと思い立った。
塩水に浸り、シケる大海原を駆け巡る船外機を趣味の目的で20年間も働かせているオーナーは、日本では稀かもしれない。
片や、陸上をホームグラウンドとする車やバイク、石油発動機に至っては昭和の激動の時代に生まれた60歳70歳代が今でも立派に生きている。それに比べれば平成12年生まれの20歳は青年である。蘇らないはずがない。
ただ、残念なことに船舶免許が失効している。
それに、船外機に寄り添っている同級生のアキレスのゴム製のボートの無残な姿が容易に想像できる。無論、後任に新たにボート購入する予定など更々ない。
だから船外機が復活したとしても大海原を滑走することはできない。
では何故?
それは、ある意味「石油発動機」の船外機版と言えるかもしれない。
即ち、放置された2000年製の船外機のエンジン音がゴール、という
「興味本位の暇つぶし!」が目的のはずだった、が……。
(ホームページに掲載する予定していなかったため、以下には後日撮影した写真やメーカーHPから引用したものがあります)
久々に見る船外機
覆い被せていたビニールのゴミ袋取り払うと、ご遺体の外観は意外に奇麗であった。
恐る恐るカバーを取り外すと、エンジンルームは
新品やん!
錆だらけと思っていた。ところが、まるであの頃を保ったまま冷凍保存されていたかのように美品である。(確かに手入れはこまめにやっていた、とはいえ、錆の場所も当時から繁殖していない)
製造年月には2000年3月と刻印されいる。
製造者は…MBK INDUSTRIE……?。
YAMAHA ではない‼
?まてよ MBK… 自転車のメーカー⁉
調べたところ、MBKはフランスの会社で自転車の他に船外機やスクーターも作っているらしい。更には、それはヤマハが100%出資した子会社で、同類の子会社が世界中に存在するというから驚きである。
では、フランス人が造ったヤマハの船外機がいつ頃まで海原を滑走していたかと思い返せば、3年目の中間船検を行い、6年目の定期検査を結局受けずに永眠に至っている。(何故定期検査を受けなかった理由については「アキレスのゴムボートFMI406」のページに」掲載予定)
そうなると、暗い倉庫に 14年間 ひたすら眠っていたことになる。
次に燃料タンクを見てみよう
埃を積んだ赤い燃料タンク(純正のポリタンク)を持ち上げて揺すると、残油が鈍く揺れた。
中には3分の1ほどの燃料が残されている。
多分、次の船出を予定していたものと思われる。(他人事のようだが)
キャップをゆっくりと外すと、やはり予想した通りであった。
中は土色に濁り、沈殿物もある。
この2ストロークエンジンはガソリン50に対してオイル1の混合燃料である。そのオイルが変色し沈殿したものとおもわれる。
取り敢えず条例に従って廃油しタンクを清掃した。
キャブレターオーバーホール
エンジンが始動する条件とは
❶ピストンに適度な圧縮があること。(リコイルスターターのヒモを引いた時、適度の圧縮でスムーズに引けるか)
❷点火プラグから火花が飛ぶこと。
❸燃料が確実にシリンダー内に送り込まれていること。
以上の3点が揃っていればエンジンは掛かる、と言われている。
長い間放置されたキャブレターは、燃料の不純物が付着してジェット(燃料が通る小さな穴)が詰まっている可能性が高い。
過去の経験から、エンジンの掛からない原因の殆どは❸燃料系である。特に14年間も眠っていたエンジンだから尚更のこと。
いよいよ燃料系の要、キャブレターのオーバーホールに取り掛かる。
因みにキャブレターとは燃料噴射装置で液体の燃料を霧状にしてシリンダに送り込むところ。例えるなら霧吹きの先端に当たるピンホールのようなところで、燃料(混合油)に含まれるゴミなどがよく詰まる。
過去に不具合等で船外機のキャブレターを取り外したことは無いし、日常の手入れ以外に工具を持ち出したことも無い。よって船外機については全くの素人である。
ただ、昔のエンジンはどれも原理は同じではないか?
キャブに不具合が頻発する37ccエンジン付き自転車のキャブレターをその都度分解清掃しているので0.8馬力と8馬力の差はあっても同じ2ストロークエンジン、多分要領に違いはないはず…。
先ず、燃料チューブ、スロットル、チョークの接続を外し、二本のボルトを外せばエアークリーナと共にキャブレターが外れる。しかし、どう見てもボルトがまわせない。外すためにはその前にあるエンジンストップ、チョークレバーが収まった取っ手が邪魔である。この取っ手は本体と一体になっており、どう見てもを外せそうにない。
スタートからつまずいた。
…しばらく、眺めていると取っ手のパネルがネジで止めてある。なるほど。そのネジで固定されたパネルのを外せばその間から付属のレンチが入る。
キャブレターの脱着は慣れないと面倒である。スロットルやチョークの接続も場所次第では簡単にいかないし、場合によっては特殊な工具もいる。
個人的にはキャブレターのオーバーホールとは、キャブの脱着にあると思っている。(尚、近年の燃料噴射装置は諸般の事情でデジタル化され、アナログのキャブレターは姿を潜めている)
ともあれキャブレターが外れた。
あとはネジを丁寧に外して更に丁寧に内部を清掃するのみ。
キャブレターを開いてみると意外と奇麗だ。
パッキンも再利用できるほど弾力もある。
確かに0.8馬力のキャブレターとは仕組みが多少違い、構造も単純だが、原理はに大差はない。
フロート室には混合油の沈殿跡は見られるが、目立ったゴミやカスも無い。
使用後はその都度真水で冷却経路をキャブレターの燃料が無くなるまでエンジンを回して洗浄していたためか、思ったより奇麗である。
しかし、キャブレター内のパーツには針より細い穴がいくつもある。
特に長期間使用しない場合、その穴に燃料に含まれる微粒のゴミが詰まる。すると、いきなりエンジンが不調となる。
エンジンの不調の原因はこのキャブレター詰まりが殆どらしい。
分解したパーツを一昼夜灯油に漬けた。
灯油は薄くサビ色に濁り、アルミのパーツは艶めいた。それからYMAHAのキャブレタークリーナーで泡まみれにして、穴という穴にクリーナーを吹きかけて貫通を確かめ時間を置き、更に念には念を入れてクリーナーを吹きかけ,予め購入していたOリングやガスケットを取り換えて組み立てた。
このキャブレターと言うパーツは、精密、緻密というだけでなく、見た目も実に美しい。
点火プラグも新品に取り換えた。
念入りに清掃した燃料タンクに新しい混合油を入れた。
これで、燃料と点火が整った。最後は14年間放置されていたピストンが正常に動いてくれるか?
古い点火プラグを取り換えるとき、その穴からオイルをシリンダー内へ少量流し込み、プラグを外したままリコイルスターターのヒモをゆっくり引いた。すると何の抵抗もなく滑らかに引ける。どうやらシリンダーに異常は無いようだ。
エンジンが掛かる条件に点火プラグから正常に火花が飛ばなければならない。
もし、火花が飛ばなかったら厄介のことになる。
さて、点火プラグから火花が飛ぶか?
(因みにこの2ストローク8馬力の船外機はバッテリーレスである)
しかしこれを一人で確認するのは難儀である。
先ずプラグコードに挿したプラグを左手で持ちその先端をエンジン本体に接触させてアースをとる。そして右手で圧縮のある船外機のリコイルスターターを力強く引く。すると船外機スタンドが揺れ、左手が揺れ、アースが外れる。それに日陰とはいえ日中は見にくい。
時間をおいて何度も繰り返しているうちに、左手に「パチッ」と電気が走った。
いわゆる感電である。
プラグの電圧は数万ボルト言われ、軍手などものともしない。これまで恥ずかしながら感電の経験は数回ある。最近では一昨年石油発動機のエンジンを掛けるとき不用意にもプラグとプラグコードの接続部に手を触れて感電した。
ともあれ、火花が出ていることが分かった。… 一抹の不安はあったが…。
(後に、この一抹の不安が現実的な問題となる…)
大き目のバケツに水を入れてスクリュウーを浸した。新しい混合油を入れたガソリンタンクとエンジンをホースで繋ぎ、途中にある卵形の手動ポンプを数回押して、燃料をキャブレターに送る。
ポンプに手ごたえを感じたところでチョークを引き、いよいよエンジンスタート。
左手で船外機を押さえつけ、右手でリコイルスターターを勢いよく引く。
バイクでいう「キック」である。
緊張の一瞬である。
1回、2回、3回…適度な圧縮はあるが掛からない。そこでチョークを戻しスロットル位置とガソリンタンクのエアーの開放を確認した。(エア抜きを忘れるとタンク内が真空状態となって燃油がキャブレターに送られずにエンジンが掛からない。または掛かっても直ぐにストップする。よくあるミス)
特に問題なし。
更にスターターを引いていると、ついに
煙幕のような白煙をまき散らしてエンジンが唸った。
14年振りに目覚めた瞬間である。
が…… 「ポンポンポン」と苦しそうに白煙を吐きながら、
再び深い眠りに落ち込みそうな眼ざめである。
そこで「眠るな!」とゆっくりアクセルスロットルを吹かした。
しかし、エンジンは吹き上がることもなく、まもなく「ストン」と、うなだれるように息途絶えた。
—おかしい⁉
再度始業点検を行ってリコイルスターターを引いた、が、ポンポンポンと頼りなく唸って、吹かせば止まる。
その繰り返し。
これから数か月間に及ぶYMAHA8馬力船外機との苦闘の始まりである。
問題点①異常に白煙が多い
②スローが不安定(かぶったように)
③吹かすとエンジンが止まる。
ともあれ、ピストンに適度な圧縮があって、火花が飛んでエンジンは掛かる。
①については、そのうち正常に回復したので、シリンダー内に流し込んだエンジンオイル(つい多めに流し込んだ)が燃焼したものと思われる。多分。
②はスローの調整も考えられるが③が伴うとなればやはりキャブレターから適度な混合気が燃焼室に供給されていない。
清掃のやり直しである。
再びキャブレターを取り外す。
2度目だから大体の要領も掴めたが面取り外すまでが面倒である。
キャブを取り外して再び分解した。
燃料を溜めるフロートチャンバーにはガソリンが溜まっているから燃料は順調に運ばれている。沈殿物もない。
再び細かなパーツもすべて外し、泡まみれにして、しばらく時間を置いた。
特にニードルの小さな穴に洗浄液を吹きかけ貫通を再度確認した。
前回固着していた燃料ポンプのダイヤフラムという膜(キャブレター展開図31.33)も丁寧に剥いで洗った。これが原因だったかもしれない。
念のため燃料フィルターも再点検したが異常は無い。因みに純正の燃料タンクは錆びないポリタンクである。
キャブレターを組み立て、リコイルスターターを祈るような気持ちで引いた。
しかし… スロー → 不安定(かぶったような)
吹かす → エンスト ⇒ 変化なし
ネットで同類のトラブルの対応や、その道に詳しい人の書き込みな見ても、不調のほとんどがキャブレター関係で、CDI(リコイルスターターを引くことによって強力な磁石を回転さて電流を起こし、その電流をコンデンサーに蓄電させ、それを一気に放出する点火装置)やイグニッションコイル(点火した電圧を2~3万Vに変換してスパークプラグに送るところ)の故障は滅多に無いという。
確かにCDIもイグニッションコイルも一体型で完全密閉されており、海水は勿論、空気にも触れない造りである。要するに故障しない構造である。
それに、エンジンが掛かるということは発電してスパークしていることではないか。
要するに、原因は燃料系。
しかし、2度も清掃して症状に変化がない。
ということは燃料タンクからキャブレターまでのホース問題がある!
(ホースに固着した古い混合油のカスが新しい燃料に交じってキャブレターに禍しているに違いない!)
そこでホースの途中内ある卵形のプライマリーポンプを取り外して洗浄液をホース内に送り込んで丹念に洗い流した。そして、奇麗な水が送られてくるのを確認した。
燃料ホースを洗浄した後、3度目のキャブレター分解清掃。
念のためスロー側の調整を行うスロージェットや燃料の流入を調整するバルブニードルも新品に交換した。
しかし… 不安定なスロー
吹かすとエンスト
全く改善の跡が現れていない。
やはり素人には無理なのか…。
JBL(スピーカー)の修理もあって、8馬力の船外機はしばらく放置していた、が、
どうしても気になるところがあった。
当初、プラグの点火を確認する時に迂闊にも感電した。その時、感電の感触が過去の経験と違っていた。
過去の感電は「パチン」と弾かれるような強烈な衝撃であった。しかし、その時は
「パチ」と、静電気が走る程度の感触だった。
そこに一抹の不安を感じたのを思い出した。
もしや、
電圧が低いのではないか?
もうこれしかない!
となれば,滅多に故障しないという式点火装置のCDIか? それともコイルの巻数の違いによって昇圧させるイグニッションコイルか?
火花は出るが電圧が低い、ということは、発電はしているのに昇圧していない。
即ち、CDIユニットではなく、イグニッションコイルの故障!
是非、そうあってほしい。
なぜなら
イグニッションコイルのメーカー価格 5,285円
CDIユニット 23,540円 !
海原を走らせる予定のない船外機にこれ以上投資するだけの価値が果たしてあるのか!?
・・・しかし、既に、ニードルやガスケットの交換にそれなりの費用を費やしている。乗りかかった船、あっさりと止めるわけにはいかない。それにスクリュー周りの交換パーツやオイルもすでに購入済みである。
不調の原因はコイルの腐食に違いない。・・・最後の賭けである。
そうこうしているうちに注文していた完全密閉のイグニッションコイル(5,852円)が届いた。
このパーツの交換で14年間眠り続けた彼は爽やかに目覚めるはず!。
いや、目覚めなければならない‼。
新しいいイグニッションコイルに取り換えた。
尚プラグコードの先端、即ちプラグに挿入するパーツはついていない。よって既存のコードから取り外して取り付けなければならない。
取り付けに際しては接点復活剤を塗布した。(作業難度2)
スターターの準備も万端整え、祈る思いでリコイルスターターを勢いよく引いた。
2度・3度、そしてエンジンが唸った!
が、— 頼りない息遣いとなって、
・・・間もなく息を引き取った—。
これまでと全く変わらない展開である。
犯人はイグニッションコイルではなかった。 ということは!
フゥー(溜息)
半ばあきらめていたが、どうも納得がいかない。
そこで、メーカーのYMAHAに矛先を向け「なぜだ!」と問うた。
すると、YAMAHAの担当者はいきなり、
「これまで、キャブレターの清掃の経験はありますか?」と訊いてきた。
そこで「原付バイクならある」と応えた。実際は原付バイク、というより草刈り機のエンジンのようなものであるが—。
「スタンドに固定した船外機は安定性がよくありません。(引く力が弱く、よって電圧が低い、といいたいらしい)。それに、キャブレターはクリーナが直角に当たらない穴もあります。小さい穴も見落とさずにもう一度キャブレターを清掃してみてください。もし、それでもダメな時はCDIの可能性があります。主に漁船を扱っているところは中古を在庫している可能性があり、当たってみてはいかがでしょうか?」
「ありがとうございました」
説得力のある回答である。
何度目か分からないが、またキャブレターを取り外し、分解した。そして本体を光まばゆい太陽光をまんべんなく当てながら観察した。すると、本体側にも確かに髪の毛が通るか通らないほどの穴、或いはピンホールらしきものがあった。もしこれが必要不可欠な穴だとすれば、相当なものである。粉のようなゴミも受け付けない。
そして、アマゾンから針より小さな穴も貫通して清掃する小道具を買った。
このようなツールがあるということは、このような小道具を使わなければ完璧なクリーニングはではない、ということか。
穴をめがけて高圧の泡クリーナーをまんべんなく吹きかけた。もう汚れなど一粒も出ない。
真綿のような白い泡が穴を突き抜け、全体を包む。(尚、クリーナーを吹きかけるときは的を狙って弓矢を射るように発射してはならない。さもないと泡が反射して自らの眼球を洗浄する羽目になる)
そして穴に応じた針金を丁寧に通し、クランクして貫通しないピンホールのような穴にも細い針金を通した。
小道具を使って穴を清掃した後、再び泡クリーナーを吹きかけた。すると
出た!
今まで雪の様に白かった泡が茶褐色に変わって飛び出した。
その汚れた泡で手袋が染まった。
驚きである。
これまでなんとズサンな清掃であったか、と認めざるを得ない。
キャブレターの清掃は隅から隅まで丁寧に、という意味が今、分かった。
これではエンジンが掛かるはずがない。
今までの努力は一体全体何だったのか!
ともあれ、長い間の重荷が下りた。
同時にヤマハ製のキャブレタークリーナーも1本使い切った。
これでやっとエンジンが復活する!
軽やかな気持ちでキャブレターを組み上げて取り付け、スターターを引いた。
エンジン復活!
「ポン ポン ポン…… ストン」
おや?
これまでと全く同じ…。
あの汚れた泡は一体全体何だったのか⁉
全身の力が抜け落ちた。
同時に、
23,540円が犯人とほぼ断定した。
もうどうでもよい。海原を走らせる予定のない船外機にこれ以上投資してどうなる!
しかし……、高額のCDI装置を取り換えないとしても、その裏をとらなければならない。
即ち、プラグからスパークの状況を明確に、確実に見届けてやる。
今度ははんだ付けの時使っていたフレキシブなクリップでプラグをがっちりと固定した。(最初からこうすべきであった)
尚、799円出費すればアマゾンからこのような「スパークプラグテスター 」が手に入る。
これを使えば火花測定が簡単にできる。
プラグを取り外しているから圧縮がないとはいえ、片手にプラグ、片手でスターターではメーカーが言う通りでは安定感に欠けるだけでなく感電の危険もある。(感電に強い人はその度合いで電圧を確認できるできるかもしれないが…)
ともあれ、これで安定した状態でスターターが引ける。
無論、それは太陽が深く沈んだ闇夜に行った。
エイ! 声には出さずプラグの隙間だけを見詰めてをスターターを引いた。
すると、
青白い閃光が走った。
あれ!普通じゃん⁈
2回目を引いた。
同じく青白い閃光が走った。
そんなバカな!
3回目
ロウソクのようなオレンジ色の光に変わった。
おや?
4日目
弱々しいオレンジ色が一瞬灯った。
5回目
遂にプラグは沈黙した。
念のためアースのコードが脱落していないか確認。
異常なし。
このエンジンは「ツインプラグエンジン」という構造で一つの燃焼室に二つのプラグが備わっている。
よって、もう片方のプラグを同様にアースしてリコイルスターターを引いた。
すると、
1回目、2回目共にオレンジ色の光が走り、3回目以降沈黙した。
即ちプラグに送られる電流が途絶えたことになる。
これで犯人を特定する証拠品が出た。
この現象は、間違いなくCDIの中に在るコンデンサーの劣化‼。
コンデンサーの主な役割は、電気を一時的に蓄えて放出するパーツである。
即ち小容量のバッテリーのようなものである。
要するに「バッテリー上がり」である。
「CDIは滅多に故障しない」と言われている。
しかし寿命はある。
バイクや車のバッテリーを20年間も交換しないで乗っている人などいない。
構造に違いこそあれ、使っても、使わなくて寿命というものがある。
ところで、CDI(コンデンサー)の寿命以前に「船外機」の寿命は?
船外機は走行時間を目安とするらしい。車と違って抵抗の大きい海をエンジン全開で走ることが多いため、車より寿命がはるかに短かいという。
使用頻度や手入れ具合でその寿命も大きく違ってくるが、聞くところによると、
漁業従事者に対するエンジン交換資金融資制度が、2015年以降、エンジンの高性能化でこれまでの返済期限が7年から10年に延長されたという。
これから察すれば、プロの使用頻度で、プロの整備を行って、せいぜい10年が寿命と言ったところか⁉。
ここでいうエンジンの寿命とは燃焼機関の寿命と言ってよい。その燃焼を手伝う華奢なコンデンサーは更に短命であることは明白である。
ともあれ数百円から数千円程度のコンデンサーを取り変れば復旧の可能性はある。しかしACアダプターのように一体型で、修理不能である。(CDIを自作する人もいるらしいが…)
どうしても復活させたいのなら23,540円支払ってユニットごと交換せよ、とメーカーは言っている。
ただ「中古でもよい」とも言った。
しかし、これは取り方によっては不親切である。あるいは無責任なアドバイスといってもよい。万一その中古品が大海原で天寿を全うしたとすれば……。
JAFは来てくれない。親切な人に押してもらって安全な場所に移動することも出来ない。エンジンがストップした瞬間から風任せ、潮任せの放浪の旅である。
潮は川の様に早い。波は船を木の葉のように舞い上げる。瀬は波間に隠れて牙をむいている。
よって、CDIの天寿は船長の天寿と言ってもよい。
残る選択肢は二つ。
— 23,540円の対価を支払って、2000年製の船外機を復活するという初志を貫徹する。
一方は、「無駄なこと」と、我に返ってここでやめる。
たとえ、誰に相談しても、将来に当てのない船外機にこれ以上の投資をすることは「馬鹿げた話だ」と呆れるばかりで後押しする者は誰一人いないはず。たとえ購入済のパーツが無駄となってもこれ以上損害を拡大させないためにもこの計画を取りやめる。
それが常識人の懸命な生き方である。
しかし、私は今、新たな目標が出来た。
その目標達成のため、23,540円を投資しょう!
新たなる目標はさておき、
注文していたCDIユニット(23,540円)が届いた。
写真左が新品、右が故障した(経年劣化)のCDIユニット(見た目で甲乙の判断はつかない)
取り換えは他のどのパーツより簡単である。
(ボルトを外して本体を入れ替えギボシの配線を接続するだけ) (作業難度1)
何度目になるか分からないが、リコイルスターターを引く。
不思議と緊張はしない。
1回 2回 3回 そして次の瞬間ついに軽やかなエンジン音が響いた。今までとは音色が違う。
ゆっくりとスロットルを吹かした。すると、
ブオン ブオン ♪♪
遂に20年前の船外機に戻った!
長い道のりであったが存分に楽しませてもらった。
CDIに感謝!
消耗品の交換
船外機をトラブルなく、安心して永く使うには定期的な点検、消耗部品の交換は欠かせない。日常のメンテナンスを怠らずを行っていけばエンジンの延命だけでなく、トラブル発生時の対応も身に付き、大海原で生死の境をさ迷うこともない。
尚、今回の交換した、滅多に故障しないといわれている電気系統のCDIユイットやイグニッションコイルユニットについては複数のパーツが一体化されていることから消耗の度合いは目視では確認できない為、それなりの時間、年月が経過したら躊躇なく交換した方がよい。
ただ2サイクルの8馬力といえど定期にプロの整備士に見てもらうことが肝要ということは言うまでもない。
1.サーモスタット交換
この船外機は水冷式で、「サーモスタット」というパーツが備わっている。
役目はエンジンが一定の温度になるまでは弁が閉じて冷却水を遮断、エンジンが温まったところで弁が開いてシリンダー周りの冷却通路に冷却水(海水)を流し込んでエンジンを冷やす。いわば水門である。水温が外気より低い海域で有効な装置である。
使用頻度が少なかった為か、冷却通路はきれいである。
温度が上昇すると中央のピストンが縮んで弁が開く(写真左)低水温時に暖機運転を短縮できる。万一錆等で弁が開かなければオーバーヒート。定期的な点検、交換が必要。《作業難度 低 》
(水冷でサーモスタットを装着しない船外機もあったらしい)
2.インペラ交換
この船外機は上記の通り水冷式のエンジンである。
プロペラ近くの吸水口から海水をくみ上げてサーモスタットを通って高温となるシリンダー周りを循環し冷却した後、排気ガスと一緒にプロペラの中央の穴から海中に戻される。
その冷却水を汲み上げるのがウォーターポンプでドライブシャフトと一緒に回る。そのウォーターポンプの内にインペラというゴム製の水車のようなものが回転して冷却水を吸い込み、エンジン側に送り込んでいる。
回転するゴムの水車が摩耗、破損などで冷却水が循環しなくなれば、オバーヒートとなる。メーカーでは200時間または1年毎の点検交換を推奨している。
船外機は大きく分けるとエンジン部分の上部(水面上)とスクリュー部分の下部(水面下)に分けられる。上下の接合は上記写真2と3の接続ボルト及び前進、行進、、ニュートラルの上下のシャフトが中央部つながれている。エンジンの駆動を伝えるドライブシャフトは差し込み式である。
よって、シフトレバーのジョイントと接続ボルトを外して引き抜けば上下が分離する。
尚、経年すれば上下が固着して中々外れないらしい。
作業は先ず船外機をチルトアップし(チルトアップした方が作業がやりやすい)シフトレバーをニュートラルにする(ギアが入っていればプロペラが回らない)。トランザム中央付近にあるクラッチレバーのジョイントを外し(意外と面倒)写真中央連結棒(水の中に入る部分)と右の連結のボルトを取り外して引き抜く。
交換のパーツは既に購入していたが、既存のインペラは破損もなく、弾力も新品と変わらなかった。捨てるのももったいなかったので保管している。
作業についてはネットやYouTubeを参考にしたがキャブレターと違って力仕事である。
プロペラも取り外しグリスアップした。
《作業難度 高》
3.ギアオイル交換
エンジンから動力を伝えるドライブシャフトとプロペラシャフトの前進用ギアと後進用のギアが噛み合うところにギアボックス(下図〇部分)がある。そこに充填されているのがギアオイル。
前進も後進もギアは1段のみ。
よってローからトップまで1速で走ることになるので、掛かる負荷は相当のものと思われる。
それを「潤滑」「冷却」「防錆」しているのが「ギアオイル」の役目である。
先ず船外機を垂直に立て、下に廃油受けを置く。それから下側のドレンボルトゆっくと回して外す。
上側のネジが締まっており、オイルシール等に異常がなくギヤケースの密閉が
良ければ真空状態になってオイルは余り出てこない。
廃油受け位置を確認して、ゆっくりと上側のネジを緩めると重力に従って古いオイルが下のドレインボルトの穴から流れ落ちる。
オイルが完全に排出したら、その排出したドレインプラグに新しいギアオイルのキャップの先端を差し込み、チューブを絞り出すように充填する。
その内上側のボルトを外した穴から充填したオイルが出てくる。そこで充填を止めて上部のボルトを締める。
ギアオイルのチューブをゆっくり引き抜き、急いで抜いた穴にボルトを締める。
以上で完了である。
ギアオイルの漏れ等でギアボックスが破損した場合その費用は高額となるため定期的な点検、交換(1年に1回)は欠かせない、と専門家は言っている。
《作業難度 低》
グリスアップ
海を走る船外機は腐食との闘いである。プロペラをはじめエンジンを上下左右に動かす部分勿論、ワイヤーやボルト等グリスアップして海水から守らなけらばならない。
グリスアップはヤマハのマニュアル(下図)に基づいて実施した。
- 内部へのグリスを装填はグリスニップルからグリスガンによって圧入する。その場合、古いグリスが押し出され新しい色のグリスが出てくるまで充填するが、古いグリスがどこから出てくるか、注意が必要である。
※作業にはグリスガンが必要《作業難度 低》
まとめ
2000年3月製造の船外機に、思わぬ時間と予期せぬ費用が掛かってしまった。
終わってみればCDIユニットの交換で済んだはずだったが……。
- 今回交換したパーツ
他にヤマハキャブレタークリーナー1,624円
キャブレタークリーナーツールセット490円
合計43,155円(税込み)
ともあれ、製造から10年を超えた船外機の不調は電気系統(CDI,イグニッションコイル)も疑わなければならない。
それ以前に、滅多に故障しないと言われている電気系統が大海原で突然死しないうちに、それなりの時期が来たら思い切って交換するか、新品の船外機に買い替えるという事である。
それにしても製造完了から20年が過ぎてもパーツを在庫している点は流石船外機で世界一のシェア―を誇るヤマハである。
そこで、ヤマハがどれほど古い船外機の部品を在庫しているかパーツカタログで確認したところ、最古で1993年モデル以降のパーツが掲載されていた。
よってパーツを交換しながら大事に扱えば28年以上、優に生存させる事が可能である。
但し、オンラインによる取り扱い説明書(マニュアル)ついては2000年以降にリリースされたモデルのみとなっている。
今回、それなりの時間とそれなりの費用を費やしてので、今後少なくとも後10年は延命してくれるはずである。
では何故、再びボートを滑走させる予定のない船外機を暇つぶしの作業にこれほどの費用を投下して延命させたのか?
20年前に製造されて14年間眠っていた船外機と共にアキレスのゴムボート(FMI406)も添い寝していた。
船外機については復活の可能性はあったが、20年も昔に製造されたゴム製のボートは過去の経験から、完全にご臨終、それもミイラ化した悲惨な状態と思っていた。
確かにカバーはネズミにかじられた跡が数か所あった。ところが、カバーを取り除き本体を開いてみると、驚いたことに元気に走り回っていた当時と何ら変わらない艶やかな肌を見せたのである。それはまるで再起を長い間待ち望んでいたかのようであった。
その健気なゴムボートを見た時、ペアを組んだヤマハの船外機と共に蘇らせてもう一度、海原を滑走させたい、と思ったことに因る。
アキレスのゴムボート編に続く
2021年 アキレス FMI406